屈斜路湖の北東岸、屈斜路湖畔林道と野上峠林道の分岐点に素晴らしいP泊地がある。
写真中央奥に続く道は屈斜路湖畔林道で、バイクで湖と美林を両目に眺めながら20kmの爽快な林道走行を堪能する。

ここから広大な屈斜路湖へ出航し、さらに全国カヌーイストの憧れである釧路川源流域へ漕ぎ出す。

私にとってこんな素晴らしい場所は他にない。

難点があるとすれば水の補給、弟子屈まで往復1時間買い出しついでに緑が丘オートキャンプ場でデイキャンプ料525円支払って補給するのが無難でしょう。10分程の藻琴山P(こちらも大展望P泊可おすすめ)から頂戴するという手も・・・。

周辺数kmにわたり人家や幹線道はないので、人によってはちょっと寂し過ぎると感じるかな。
ダイネットからの眺めもなかなか。

大展望というわけではないけれど、きれいな水面を眺めながら巨木に包まれて眠りにつくのは最高の気分。
実は駐車している場所も屈斜路湖畔林道上なのだけれど、傾いた通行止標識が示すまでもなくすぐ先は森に覆われてしまっている。15年以上前に初めてここを走ったときはこの先も普通に通れたけれど、現在は本来T字交差点のここから野上峠林道へそうと気付かず直角カーブして道道へ抜ける。



美しい湖畔の風景にほとんど茫然自失しながら、至福のコーヒータイム。
夕刻であまり時間がなかったけれど、ちょっとカヌー で散歩してみる。

水深1mくらいまで透き通る綺麗な水。
アメマス川というおいしそうな名の川の河口を見つけ、ちょっと遡ってみることにした。
屈斜路湖畔林道の橋脚かな。
この橋が落ちたために通行する人もなく、廃道化したのだろう。

おかげで最高のP泊地を得ることができた、ともいえるけど。


人工的に掘削された川のようだけれど、水や林が綺麗だし、ちょっと冒険気分も味わうことができた。名前のわりに魚のいる気配はしなかったけれど。

湖岸にはたった今あばれんぼう将軍のように浜を駆け抜けた鹿の足跡、写真は取り損ねた。

屈斜路湖は隣の阿寒湖のような大規模リゾート開発を逃れ、かといって逆隣の摩周湖ほど厳重に保護され立入禁止されることもなく、豊かな自然と自由な空間を提供してくれる。湖岸には無料の露天温泉も点在し、キャンプしながら過ごすには最高の場所なので、北海道に来るとたいてい寄ってしまうけれど、カヌー を手に入れたことでますます魅力を増した。とくに北岸には全く人工物がないので、静かに過ごすには最高の場所。
翌日も快晴のなか、屈斜路湖を巡る。

今回から水中ポンプを使用した排水システムと燃料供給システムを装備した。今まではどちらも30分毎に停船して灯油ポンプでシュコシュコやっていたけれど、波が高い状況では怖ろしいし時間がもったいない。電源はスクーター のバッテリーを使用。これだけ広い湖だと岸はベタ凪でも中央部では結構波が出ているので全開走行すると結構水が入ってくる。

手元のヨークに設けたスイッチで操作でき船の上で移動する必要がなくなったので、より安全になった。しかし、このシステムが後に災いに転じるとは・・・。
中島の綺麗な浜に上陸。

Stop the season in the sun♪
中島を後に和琴半島へ。

半島の突端のオヤコツ地獄。遠くからでもクッキリとわかる。上陸できるけれど硫黄臭が濃く体に悪そうなのでやめておいた。好きモノはここで温泉卵をつくったり即席露天風呂を作って入ったりするそうだ。

うろうろしていたら突然カヌー が激しく震動しだしたので、噴火か!と一瞬マジでビビったが、水の底からも蒸気が噴き出していてその真上に乗っただけだった、ホッ。
あの眺湖橋をくぐるといよいよ釧路川だ。

万一水没してお釈迦にしたくないので、すぐ横の浜で上陸して船外機は外してデポした。あくまで万一だった、この時は。

ここで今回初装備の燃料供給システムがあだになる。バウの携行缶からスターンの船外機まで3mを配管しているので、途中に継手を仕込んで船外機を外すときは簡単に配管を切り離せるようにしていた。船外機の燃料タンクから燃料が逆流しないよう、船外機側には逆止弁を設けていたけれど、携行缶側には何の対策もしていなかったため、切り離したとたんガソリンが配管から船内にこぼれてしまった。わずか内径6mmと甘くみたのが誤算で、3mもあると結構な量だ。
いよいよ憧れの釧路川源流へ。

言葉を失う美しい風景、水、透き通る川底。

ブラウンの細かく美しい玉石を敷き詰めた浅瀬と、エメラルドグリーンの淵が繰り返し現れる。下流域とは比較にならない透き通った水の中に魚が悠々と泳いでいる。

こんな素晴らしい世界があったなんて。
しかしガソリン臭い。
鏡の間。

釧路川の水は屈斜路湖の水なので、抜群に透明というわけではないけれど、ここは湧水が直接注ぎ抜群に綺麗で植生も独特。
もののけ姫というジブリ映画に出てくるシシ神様の池にそっくり。

シシ神様降臨!?
しかしガソリン臭い。
下るにつれて鏡の間のような湧水を統合するせいか、水はますます綺麗になっていくように感じる。

しかしガソリン臭い。

だいぶ我慢してきたが、頭痛までしてきた。せっかく最高の風景のなかにいるのに気分が台無しだ。

これを解決する手段は一つしかない。船内に水を入れてこの美しい清流にガソリンごと排水する。さっきから天使と悪魔が脳内をグルグル回っていたが、ついに魔手が灯油ポンプに伸びてしまった。僅かコップ半分にも満たない量だ、許せ釧路川。
しかし釧路川は許してくれなかった。

悪魔の面相で後ろを向いて灯油ポンプでシュコシュコ水を船内に入れていて、ふと顔を正面に戻すと目の前に倒木が!
流れの緩やかな、障害物のないところを選んだつもりだったけれど、一昨日の下流域とは流れの速度が違うのが経験不足でわからなかった。

倒木をつかんではいけないことは複数のカヌー紀行文を読んで頭の中で知ってはいたけれど、やっぱり手が勝手に倒木をつかんでしまう。カヌーは真横になったと思うとあっという間に傾いて舷から大量に浸水。その水圧は強大なもので、自分がいかに凶暴な力の上に乗っていたか初めて理解した。自分は上流側に投げ出されカヌー はひっくり返って流されていく。

投げ出された勢いで一度水中に沈み、浮かび上がった時には逆さまのカヌー が5m以上下流を流されていた。こんなところでカヌー を失ったらずぶ濡れのまま藪の中を数kmも歩かなくてはならない。必死で泳いでカヌー にしがみつくも、完全に水に浸かってキールしか水面に出ていないカヌー は流れの中で岸辺に寄せることなどできず、足も着かない川の中をただただ流されていく。カヌー から離れないよう必死でしばらくバタバタしていると足が川底に着き、火事場のクソ力でなんとか岸辺の瀞場に寄せ水中でカヌー をひっくり返した。

水の中でほとんど沈んでいるカヌー から水を出すのは容易ではなかったけれど、ヘルメットで50回ほど水をすくい出して10分ほどで再乗船できた。もしヘルメットが無かったら灯油ポンプでは風呂桶ほどの水を排水するのに1時間はかかっただろう。満水のカヌーを岸に上げることは一人ではとても無理で、どちらもなければ再乗船は不可能な状況だった。

この日の釧路地方の最高気温は21℃。水温は15℃以下だったろう。
直後に震えが来たけれど、幸い晴天で午後1時頃だったのですぐに治まった。7月下旬でも道東は最高気温15℃という日もある。

ネットを張るなど多少の沈対策はしていたものの、ものすごい水圧でネットをすり抜けた工具一式と携帯電話を失ってしまった。


ガソリンは綺麗にしてやったぞ、ガハハ。と釧路川に笑われた気がした。
昼食を取りそれなりに元気を取り戻して美留和橋に到着。

この朝、ゴールを美留和橋にするか摩周大橋にするか迷ったけれど、せっかくだからとロデオは摩周大橋に駐車してある。

この先は倒木が多くなる上に通称「土壁」と言われる難所があることはネット情報で知っていたけれど、摩周大橋のカヌーポートにこれから1週間ここにキャンプしてペットボトルカヌーで川下りをするというベテランカヌーイストに、「土壁以外は問題ない、土壁はポーテージして避けることができる、ただ数日前に降った雨で水量は多めなのであとは運。」とのアドバイスもいただき、ペットボトルで下れるなら大丈夫だろう、と浅はかな結論を出した。

美留和橋を通過した時、ここにカヌー を置いて摩周大橋まで歩いたほうがいいのでは、との考えが一瞬脳裏をかすめたけれど、沈してずぶ濡れ状態でタクシーやヒッチハイクなど不可能だし、歩くのは面倒だし、と投げやりな思考は川の流れにあっさり流されてしまった。
美留和橋付近の直線区間を過ぎると、蛇行を繰り返す区間に入っていく。

美留和橋までとは一変し、岸から大きく張り出した枝や倒木が行く手を阻む。この写真は全然穏やかな場所で、コーナー→倒木→コーナーの連続で写真を撮っていたら確実に沈するような場所が多い。もっとも大きなコーナーのインは流れが無いので休むことはできるし、見方によってはテレビゲームのようで面白い。ゲームと違うのは敵(倒木)に当たれば大幅な体力と時間の消耗を強いられるということ。
だいぶ透明度も落ち普通の川といった感じ。

倒木が完全に行く手を阻んでいるように見えるところもあったけれど、それなりに人の手が入っているのか、ラインは確保されているようだ。しかしこのカヌー はスターンに船外機用のトランザムがあるので流れの中では常に後ろから押されバックはおろか停止することも難しい。強制スクロール緊張感溢れすぎの漕行。先ほどの沈の恐怖がまだ生々しいので、必死の形相で右に左にと忙しくパドルを漕ぎ続ける。

美留和橋から摩周大橋までは直線距離なら10kmないけれど、蛇行しているので思ったより長い。時間はたっぷりあると思っていたのに夕暮れになってきた。景色も単調だし、ゲーム性以外は特筆すべき区間ではないと感じた。
いいかげん疲れてきたところで川面の木の枝にピンクのテープを発見。コーナーを通過する度に、次は土壁か、とビクビクしていたので、ここでもインに寄ったつもりだったけれど寄せが甘く、川の真ん中の浅瀬に座礁してしまう。左の浅瀬に歩いて渡ろうとしたけれど、左写真中央の僅か幅1mの水路が深く流れも速いので渡れない。冷静に辛抱強く下見すれば他にもポーテージできるルートはあったかもしれないけれど、7時間の航行と沈で疲れ切った状態で日暮れが迫るなか広い川の真ん中で独りゴウゴウと唸る音に取り囲まれるとその精神的プレッシャーは巨大で、ただただこの状況から逃れたいという短絡的な思考が全身を支配する。左写真中央の水路を真っ直ぐ突っ切れば大丈夫、と乗船するも、経験もない初心者が瀬のなかを斜めに移動できるわけもなく、圧倒的な流れに押され右写真の倒木へ特攻。直前にカヌーのなかに潜りこんだがそううまくすり抜けるわけもなく玉砕。 広い瀬の水が全て右端の淵に集中しているので、淵の底へ向かう水流が強くかなり深くまで引き込まれたけれど、ライフジャケットのお陰でいったんは浮かび上がる。しかしまた淵の底へ向かう水流に捕まり水中に引き込まれ、ちょうど息継ぎしていたところだったのでしこたま水を飲み軽いパニック状態に。泳ぎは6年間スイミングスクールに通い自信はあるけれど、そんなものは役に立たず、ライフジャケットの浮力がなければ溺れていたかもしれない。

幸い淵の先は瀞場だったので、あまり流されることもなく浅瀬に上陸することができた。しかし水中へ引き込まれたときにパドルを離してしまい行方不明に。摩周大橋のカヌーイストから、土壁で他の人のカヌーが水中から浮かばなかったことがあると聞いていたけれど、あの底へ向かう水流に捕まったら、浮力体の付いていないカヌーは川底へ沈んでしまうだろう。岸や倒木に張り付いてしまうこともあるそうで、パドルの損失で済んだのはむしろ幸運だった。

風呂桶のようになったカヌー はひっくり返そうにもビクともしないので、またヘルメットで排水し再乗船。しかし先ほどの沈とは違い午後6時を回り気温は低下し体の震えが止まらない。予備のパドルは船体に結び付けてあったけれど、シングルパドルなので紛失したダブルパドルに比べると漕力が半分、軽い低体温症で気力体力が低下しているので先ほどは難なくかわせた程度の倒木に突っ込みそうになりながらも、なんとか薄暗い中摩周大橋が見えてきた。朝お会いしたカヌーイストがカヌーポートのスロープに立っているのが見えた時、あぁ助かった、と思った。すぐに暖かい飲み物を頂けたので、体の震えも治まった。朝アドバイスをいただいたことで、逆に責任を感じさせてしまったのかもしれません。
ゴールの摩周大橋にロデオを置いていたので、すぐに着替えてFFヒーターにあたり湯を沸かして軽食を取った。この時キャンピングカーで本当に良かったと思う。

眺湖橋のカヌーポートにデポしてあった船外機を回収し、無料露天温泉コタンの湯にゆっくり浸かり緊張でガチガチになったままの心身をほぐす。

沈の恐怖は体に刻みこまれ、もう無邪気な心でカヌーには乗れないな、と思う。最もこれは長く続けるなら必要なことで、この緊張感なしに乗り続けることは危険ではあるけれど、一抹の寂しさを感じる。携帯電話とパドルで約2万円の損害は痛いけれど、怪我したわけでもないし、授業料として妥当でしょう。

さて、明日はさすがにカヌーに乗る気がしないので、久しぶりに林道ツーリングで気分を切り替えよう。

P泊地から直接屈斜路湖畔林道へ走り出す。

朝起きてすぐに林道走行ができるなんて、最高の贅沢だ。
この林道は5回位走っているけれど、ほとんどの区間湖ぎりぎりの場所を走るので爽快この上ない。
阿寒湖周辺でいいP泊地がないか探してみたけれど、阿寒パンケトー林道は相変わらず有人ゲートで閉鎖されているし、湖に至る道はことごとく厳重に閉鎖されている。狭苦しい温泉街は高層ホテルが林立しすごい人混み。キャンピングカーも多数国道沿いのPに駐車していたけれど、あんな車が多く建物しか見えない場所に滞在する気はしない。湖に直接漕ぎだせそうな場所もないし、景観は良くてもこの湖はダメだな。金を落とさなければ湖面さえ見せない、表向きは自然保護を騙っているけれど、乱開発しておいて既得権を守るため封鎖しているようにしか見えない。気の利いた施設はないけれど、どこからでも湖岸に入り放題の屈斜路湖とは対照的だ。
4年前に17日間北海道に滞在し約50本林道を走りまわった ときにダントツNo.1だった白水フレベツ林道を再訪。
よく整備され走りやすい路面と独特の景観は健在だった。
カヌーツーリングもいいけど、やっぱり林道ツーリングもいいもんだ。

決して昨日沈したからそう思ったわけではない、多分・・・。
8泊(フェリー2泊)9日の旅が終わった。

今回初めて利用した太平洋フェリーは設備がとても豪華で、例年利用する新日本海フェリーや川崎近海汽船とは違った気分の船旅を提供してくれた。今までは1円でも安く、1分でも早く北海道へ、と貧乏根性丸出しだったけれど、夜遅く出て朝早く到着するのでフェリー内では本当に寝るだけ。朝飯前に下船だったり歯磨きする間もなく下船で、車両甲板内のロデオで下船順番待中に用を足したこともある。今回は朝食後もゆったりと海を眺めながらコーヒータイムだったので、下船後のテンションが全然違う。仙台~八戸(秋田)間の燃料費もガソリン代が高止まりの今はバカにならないし、ちょっと高いけれどおすすめ。

次回は8月下旬、知床を目指す予定。今回は過密スケジュールの危険を知ったので、知床岬は目指さずウトロや相止周辺を遊覧航行するつもり。岬を目指すのはデッキ、アウトリガー、ビバーク設備を取り付けてから。今回の旅で得た要改修点も他々あるので、ちょっと間に合いそうにない。あとはオホーツクや道東に点在する海岸沿いの湖沼や湿原を航行してみたい。





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